著名な田坂広志氏のオンラインセミナー講演のアウトプットです。
これまでの経済学とは異なる考え方となる「ボランタリー経済」と「目に見えない5つの資本」について示し、「21世紀の新たな資本主義」の在り方について語られています。
結論
これから確実に新たな資本主義の時代への突入に向けて自己・組織を戦略的に高めるためのポイントは3つである
- 自分自身の目に見えない資本の棚卸を実施すること
目に見えない5つの資本の観点で自己の資本を列挙する - 明確な『使命感』と強い『志』を持つこと
世の中のために成し遂げる本気の気持ちを強く念じ明確に自分のものとすること
この結果、周りに目に見えない資本が集まってくるようになる - AI革命で必要となるスキルを醸成すること
- ホスピタリティ
- (組織を統率する)マネジメント
- クリエイティビティ
序論:現代の資本主義に変革が求められている背景
現在、これまでの人類の歴史の中で最も貧富の格差が拡大している
「コロナ失業」に代表されるようにコロナ禍により一層格差が加速化している
この根本原因は、資本主義のメカニズムにある
Post/With コロナの先にあるものは、「コンタクトレステクノロジー時代」(人と人が直接触れない技術・環境)
代表的なテクノロジーとしては、オンライン、自動化、AI、VR、DXなどであり、第四次産業革命といわれている技術である
このテクノロジーにより、例えば自動運転技術の進化によりAI失業が生じるなど新たな失業を加速化させることが考えられる
今後は、現在の専門知識・論理思考を主体としている仕事がAIへ置き換わっていくことになるだろう
それでは、テクノロジーの進化により、人類はユートピアな世界を得られるのか?
即ち、ベーシックインカム(富の再配分)により人は働かずに生きて行けるのか?
結論から言えば、Noである
現在の資本主義の仕組みで富を再配分することは、人の能力が変わらずに競争経済の中で行うことになるため限界が生じる
このため、現在の経済原理を根本的に変えなければ実現は不可能である
では、どうすべきか?
国民全員が能力を高めることが必要となり、このための施策が必要となる
施策の例として、ダボス会議や米国のビジネステーブル(181社のCEOで組成)で提唱されている「グレートリセット」があり、これは「ステークホルダー資本主義」と呼ばれる
日本においても、経団連が「サステナブル資本主義」、日本政府が「(現代版)所得倍増計画」を提唱している
それでは、これらの「ステークホルダー資本主義」や「サステナブル資本主義」は何が新しいのか
全世界の会社において創業年数が長い日本の会社は、創業100年以上が全世界の41%(約33,000社)、創業200年以上の会社が全世界の65%(1,300社)を占めている
所得倍増計画は、富の再配分だけでは限界があるため、人材価値を高める必要がある
日本型資本主義、日本型経営は、昔から利潤追求に偏重しない考え方を持ち合わせており、これからの時代では必要な考え方となる(本来の資本主義の考え方が含まれており全否定はできない)
本論:本当の資本主義とは何か
新しい資本主義の課題は2つである
- 経済原理を抜本的に改革する:マネタリー経済からボランタリー経済へのパラダイムシフト、そして融合へ
- 『資本』を再定義する:目に見えない5つの資本を定義する
マネタリー経済とボランタリー経済
現在の貨幣経済は、マネタリー経済であるが、今後はボランタリー経済と融合することになるであろう
ボランタリー経済とは、共助の精神を体現した経済活動であり、人類はこれまでも経験してきた
物々交換、贈与(ギフトエコノミー)など人々の心の満足を主体とした経済活動(=共助の経済)である
また、老人介護、家族支援、子供教育、地域防犯(火の用心、美化活動など)など人類は一貫して社会を支えてきた
然し乍ら、これらはこれまで「陰の経済」であり、貨幣で換算が行えないものであることから重要視されず見失われつつあったが、今後はボランタリー経済が注目されるようになるだろう
1995年ごろからのインターネット革命以降にボランタリー経済活動は行われている
代表例として、Linux開発、インターネットドメイン管理、ネットショッピングサイトのレビュー評価コメント、Googleの各種サービスなどが挙げられ、善意や便利なことが無償で利用できる仕組みが整備、運営されているのである
ネット革命により、ボランタリー経済の影響力が大きくなった
会社組織においても、社会貢献活動の代表例がCSRからSDGsへシフトしている
ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)は、サステナブルな事業展開を企画・運営している
ボランタリー経済とマネタリー経済を融合した考え方・精神は、日本型経営・日本型経済において既に実現されている
つまり、日本の企業は「本業を通じて社会に貢献する」という考え方を以前から当たり前の理念として持ち合わせているのである
ボランタリー経済の精神は、例えば、会社内において給与に関係なく部下の指導・育成に懸命に行う、時間外業務を厭わない、先輩から受けた恩は後輩へ返すなどで実践されているのである
エンジニアにおいても使命感を以って取り組むこと自体がボランタリー経済の精神である
一方で企業において人材が育ちにくくなりつつあり、改革の必要がある
イノベーションは経済的観点のみでは成し得ないものである
目に見えない5つの資本
今後は高度な知識の時代となる
高度な知識の時代とは、特許などの知的財産を指すものではなく、解釈が広い概念である
- 高度知識資本・・・言わば、文書化して継承することが困難な「暗黙知」
- 関係資本・・・貸し借りができること。知識の等価交換が前提となる。単なる名刺とは全く異なる
- 信頼資本・・・その人の信頼性。関係資本の上位レベルに相当
- 評判資本・・・その人の周囲の評判。更に信頼資本の上位レベルに相当
- 文化資本・・・共助のコミュニティに所属していること・状態
今後は、これらの高度知識資本をどの程度保有しているのかが会社の指標の一つとなる
目に見えない資本主義は変化しており、例えばシリコンバレーでは、高度知識資本を目利きできる人材やコミュニティが集合している地域である
成長している組織は、デジタル技術を最大限活用し、高度知識を見える化し、多く保有している
日本の地方創生が進まない理由は、目に見えない知恵、絆、共助、共感の精神が薄れてしまっていることが背景にある
ボランタリー経済と高度知識資本は1つの概念である
経済は貨幣のみで行われるのではなく、目に見えない資本のやり取りである
つまり、『善意』、『ボランタリー精神』、『志』、が極めて重要となる
社会起業家は、上記を基軸として様々なビジネスモデルを創出している
《セミナー情報》
- 主催:多摩大学大学院MBA 特別公開セミナー
- 講演タイトル:「新しい資本主義」とは何か -21世紀の社会を動かす「目に見えない資本と経済」
- 講演者:田坂広志 氏 多摩大学大学院 名誉教授
- 開催日時:2022年2月20日(日)14:00~15:00

